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では続きです。
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浅はかだなって思った。
自分の周りにいる人間には、自分のように苦労している人は少ない。
そう感じてしまって仕方がなかった。
もしかするとその感覚は間違ってはいなかったのかもしれないけれど、そう感じでしまう自分が、浅はかだと思えた。
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初めてのアルバイト
初めてのアルバイトは、塾講師だった。
高校時代の友人のつてで、そいつと同じ塾で働いた。
個別の授業で、自分の受け持ちは主に中学英と数学。
文系の自分に数学は少々荷が重かった。
同じ塾には何人かアルバイトの講師がいた。というより、ほとんどがアルバイトの講師だった。みな同じ大学生。プライベートの話では自然に恋愛の話にもなった。
この場でカミングアウトする気にはならなかった。
したところでどうにかなるものなのだろうか。どういう反応が返ってくるかもわからない上に、懸念事項が多かった。
周りは恋愛面や人生でそこまで悩んだ経験なんてないのだろう。温室育ちだ。話していることもありきたりな恋愛の話。中身が薄い。
そんな人達に自分のこと打ち明けてまで仲良くなろうとは思えなかった。
何かを聞かれれば、とりあえずそれらしいことを言って切り抜ける。
どんな子がタイプ?
どういう顔がいいの?
そういう話も、全部性別を入れ替えて考える。
幸い、結婚や子供なんていう、先々の話にまで及ぶことは少なかったから救いだった。
自分の中ではすでに吹っ切れていた、結婚や子供という話。
縁遠いというよりもほぼほぼ関わりを持たないであろう話。
そのことで憂鬱になるのはもう経験済みだ。今更何か思うこともない。
大学生の恋愛では、この話まで至る方が実は少ないのかもしれない。
みんな目の前のことに必死だ。そう考えると、大学生といえど子供だった。
もう一つのアルバイト
塾講師と並行して、一年の夏からカフェでアルバイトを始めた。
大学のすぐ近くにあるカフェ。自分でバイトを探すなら、なんとなくカフェで仕事がしてみたかった。
大学の近くにある兼ね合いで、授業前や授業後にすぐに行くことができる。それからカフェと聞くと、なんとなく格好いいアルバイト、なんていうイメージがあった。そんなイメージを頼りに仕事を選んだ。
ここでも学生のバイトがほとんどを占めていた。同じく恋愛の話に困った。
とにかく一線を引いた。自分から他者と仲良くしようとすること自体苦手意識のあったけど、それ以前の問題として、自分の中で嘘をつきつつ話を合わせるのがストレスだった。
仕事についても、最初はうまくいかなかった。
授業の兼ね合いであまりバイトに入れず、自分よりも後に入った人が、自分よりも進んで新しい仕事をやっていた。
そんなことでその人を嫌いになることはなかったが、なんとなく気が引けてしまった。その時の店長とも、うまく反りが合わなかった。
塾講師もカフェでのアルバイトも、周囲の人間とちゃんと仲良くなれる気がしない。常に嘘をついている感覚、そして本当のことを隠している事実が、自分と周囲の人間の間に壁を作った。
周りの人間を温室育ちのゆとった人たち、という感じに、こころよく思わない自分もいる。
そんなことが相まって、周りの人間を好きにはなれなかった。
許容して、それからのこと。
高校時代、自分のことに精一杯だった。自分に訪れた現実を許容し、受け入れることに苦慮した。
どうにかそんな自分を許容し受け入れた後の大学時代、周囲の人間との関わり方がうまくいかなかった。
さしてそのことで気に病むことはなかったけれど、今からしてみれば、まだまだ未熟だったというか子供だったなと思う。
大学時代の四年間は、周りの人間との関わり方だったり、考え方や価値観が大きく変化した時期であった。
今に至るまで、こんな風に自分を変えることができたのは幸いだったと思う。
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