高校生の頃⑩ ベランダからの景色

前回の話はこちらから。

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では続きです。

目次

かわたれ時

明け方、目が覚めた。

ぼんやりする意識の中で、それでも分かったのは

ずいぶん遠くの、昔のことを夢で見ていたこと。

日付が変わる少し前から、今に至るまで

予定よりも早く目が覚めてしまったことに、ため息が漏れる。

少しだけ乱れた掛け布団を手繰り寄せ、肩までうずくまるように布団をかけた。

 

昼夜の気温差が激しく、肌寒くなる頃。

日が翳るのは早く、日がのぼるのは遅くなる頃。

 

目が覚めた明け方も、窓とカーテンの隙間から漏れるのは陽の光ではなく、

家の近くにある街灯の、白いあかりだった。

その明かりに背を向けるようにして、寝返りを打つ。

暗い部屋の中だけが視界に映った。

もう一度さっきの夢の続きを見たい。

そんな都合よく、見られるものでもないけれど。

 

ベランダで

校舎の3階には、弓道場がある。

Tは弓道部で、弓道場の目の前にあるベランダのようなところから、部活をする自分や

サッカー部の彼のことを見つけては、声をかけてくれていた。

球技大会の二日目、合間の休憩時間。

Tと二人でそのベランダに出ては、例のごとく取り留めのない話をしていた。

誰もいないグランドを眺めながら、広いベランダに二人きり。

少し先の将来について話した。

彼は理系で、自分は文系。

進級する頃には、Tとクラスが違うことは決まっていた。

 

「もう次の球技大会からは敵同士だね」

いつもの笑顔で、Tはそう言った。

「あーそっか…クラス違うもんね」

「負けないからね?」

「俺も負けねーよ?でもまだ一緒にバスケしたかったなぁ」

「え、まだできるんじゃないの?」

「だって来年クラス違う訳だし、大袈裟なこと言ったら、俺とTが一緒にバスケできるの、一生のうちで今日が最後かもしれなかったんだよ?」

「あー…そっか」

「うん」

「……」

「ありがとうね。一緒にバスケできて楽しかったよ」

少しだけ間を置いて、グランドに向けていた目をこちらに向けながら

そう口にした。

 

一緒にバスケをして、遊ぶことはあるかもしれない。

でもこんな風に、一緒に試合をして、勝利を目指すことは、

恐らくもうない。

自分がパスをして、Tがシュートを決めることも

自分がシュートで失敗しても、それをTが得意なリバウンドでカバーしてくれることも

もう恐らく、ない。

くだらない話ができるのも、あと何回なんだろう。

先々のことを考えても仕方がないことなのに、どうしても

それが頭に浮かび、悲観的になる。

それでも、このベランダで二人、話したことはずっと覚えていた。

悲観的になりながらも、こんな風に気持ちを共有できたことが、

そんな時間を過ごせたことが、印象的で、何にも変え難いものだった。

 

たそがれ時

夕方の6時ごろ。もう日はほとんど落ちてしまった。

この頃の空は不気味な程赤く、そして紫になる。

 

まだ自分の手元にないものについて、例えば将来について。

それをあまりに深く考えすぎるのは得策ではない。

そう考えられるようにもなった今では、

目の前にあるもの、こと、時間に、自分の焦点を当てた方がいいと

時折立ち止まっては意識してみる。

昔の自分がそう上手く考えることができなかったのは、

きっと自分の思い描いていた将来と、現実とがあまりに乖離していたからだと思う。

普通の幸せになんてなれないと悟った時、

他の人と自分は違っていて、それに気づいた途端、

漠然とイメージしていた人生設計も全て変えざるを得なかった。

この先どうしたものかと、考えてしまうのは仕方がない。

自分の焦点が、先々のことに向いてしまうのも、こういう理由からだったのだと思う。

 

遠くを見ようと思って目を凝らしても、結局のところ、はっきりと見える距離には限界があるんだ。

遠いものはぼんやりとしか、見ることができない。

遠くを見ようと思って目を凝らしては、すぐ目の前のことが、目に入らなくなる。

 

目の前が見えなくなると、

もしかすると自分は幸せなのしれない、と言うことを、時に忘れてしまう。

無論それは、きっと過去に思いを馳せても同じこと。

 

過去にも未来にも、気持ちを置いていってはいけない。

 

 

あれから二度と、同じコートに立ち、バスケをすることはなかった。

それを思い出したところで、もうそれでよかったのだと、

自分に言い聞かせるしかないんだ。

 

 

 

 

 続きはこちらから。

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