修学旅行と図書館 高校生の頃③

今回も、先週と同じく高校時代のことを書いていきます。
前回、前々回の記事はこちらです。まだの方はこちらから…!

夏、帰り道とデート 高校生の頃①

プレゼント 高校生の頃②

では3回目です。どうぞ。




一、二年生のころ、学内で委員会というものがあった。

何かしらの委員会に入る必要があり悩んだのだが、としやに「一緒にやろ」と言われ、同じ図書委員会にはいることができた。

図書委員会は、お昼休みや放課後、図書室の管理をする。

仕事内容はイメージ通りで、本の貸し借りを受け付けたり、本の整頓をしたり。

加えて、CDやDVDの貸し出しもした。そういった管理をしつつも、図書室に置いてほしい「リクエスト」の処理をしていた。

そんな図書室での仕事は、としやと一緒にいられるいい口実にもなった。

校舎は七階建てで、都会の真ん中にある。異様に縦に長い校舎だ。

最上階に図書室は位置しており、そこそこの景色が臨めた。

放課後、いつもの仕事をしに図書室に入る。

古い紙のにおいがうっすらとするこの部屋は、窓から入り込む西日の色で、淡く色づいていた。

窓から校門付近に目を下ろすと、下校する者、部活に向かう者がいる。一人一人に別々の生活があると思うと、なんだか不思議な気持ちになった。

同じ学校、同じクラスであっても、みんな別々の暮らしがあって、人生がある。僕はどれくらいの人と、関わるのだろう。

窓から見える人々は、きっと僕とは関わらない。関わらずして、各々の人生を過ごしていくんだ。

そしてきっと、今仲良くしている人たちも、卒業後ずっと関わり続けることは稀であろう。

好きな人とは…この先も、今のように仲良くいれるのだろうか。

ちょっとした不安が胸をかすめた。

「なつき、おまたせ。」

おくれてとしやがやってきた。

ああ、そうだ。
彼は今ここにいて、僕の手の届くところにいてくれる。

そう思うだけで、先の不安はすぐに消えてしまった。

あの頃の僕は、一日一日を刹那的に生きていた。
そうでもしない限り、先の見えない不安で溺れてしまいそうだったからだ。

同じ性別の男の子を好きになってしまった。そんな人の未来なんて、聞いたことが無かった。

将来について考える度、胸のあたりが重くなって、呼吸が浅くなる。

 

――息をしなくちゃ。溺れそうな日が続いているとしても。
立ち止まって 君がいないかなんて 探しちゃうんだよ。――

 

あの頃聞く歌は不思議なほどに、あの頃の自分とよく重なる。
そしてそんな歌との出会いも、あの図書室で手にしたアルバムがきっかけだった。

図書室での仕事は、生徒が来ない限り暇だった。

カウンター内でおしゃべりしたり、図書室の中にあるソファーでくつろぐこともできた。

本を棚に戻しながら、たわいもない話をして過ごす。

としやは図書室の中をぐるぐると歩き回り、小声で歌いながら仕事をしている。

気づけば、図書室には誰もいなくなっていた。

突然、歌が止んだ。

本棚の隙間越しに、彼と目があう。

 

「誰もいないね。」

そう言う彼の目元は笑っていた。

図書室の静けさに今二人きりなんだと、急に意識させられる。

どこかで、楽器の音色が響いている。その後ろから、運動部の音や声が聞こえる。

外の喧騒が、ぼんやりと校舎内を流れ、僕の意識に入り込む。それはどうしてか淡く、脳を優しくなでるようにして消えていった。

その奥で、胸をうつ自分の音が、大きくなっていることに気づいた。

 

放課後の図書室に、思いを寄せる人とふたりきり。

何かいけないことでもしているような、不思議な高揚感にどきどきした。

西日がまぶしく差し込む、夕方のことだった。

 

仕事をすませた後、修学旅行について話した。

行先はマレーシア。なんとも特徴的な旅先だ。

「部屋、どうなるんだろうね。」
「二人か三人部屋らしいよ?」
「え、やっぱそうなの?」
修学旅行の部屋割りは気になるものだった。それも大部屋ではなく個室ともなれば、としやと一緒が良い。

「なつきと一緒でもいいよ。」

彼はそう口にした。

あまりにあっさりと、そんなことを口にするので拍子抜けするほどだった。

まさかそんな風に言ってもらえるとは思わなかった。

「と、としやがいいなら…いいけど…」
「俺はなつきのベットの下に隠れるね?笑」
「え、なんで笑」
「おもしろいじゃん。」

何がおもしろいのだろう。

それが分からなくて、でもそんなことを言う彼がおもしろくて、笑ってしまった。

相も変わらず、彼は少し変だ。でもそういうところが子供らしくて、かわいくて、好きだった。

修学旅行はまだ先のことだ。でも、少しだけわくわくした。

やっぱり、彼と一緒にいれると楽しい。

彼はきっと、僕が喜んでいることにも気づかなかっただろう。

静かに喜びを噛みしめながら、図書室を後にした。

 

 

としやと別れ、校舎を出る。先の喧騒がうるさいほどに聞こえてくる。

僕も、図書室から見降ろしていた「みんな」のうちの一人に混ざった。

今側にいる人たちも、やがては卒業し、自分の人生を歩んでいく。

それは、としやも同じだった。

僕は、そんな未来に、見て見ぬふりをしていたのかもしれない。

制服のポケットからイヤフォンを取り出し、喧騒に耳をふさぐ。

夕暮れ時の濃ゆい紫色の空が、ビルの隙間から覗いていた。

 

 次の記事はこちら。

 好きな人と球技大会と 高校生の頃④

 

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