今回も、高校時代の事を振り返る記事です。4回目になります。
初回の記事、前回の記事はこちらです。まだ見ていない方よかったら。
それでは4回目です。どうぞ。
思春期特有のものなのだと思う。みんな、どんどん変わっていってしまう。
僕と仲良かった周りの友達も、少しずつではあるけれど「女性」を知っていった。
それが、寂しかった。
何も知らない子供だった僕らは、いつしか異性の誰かを好きになって付き合って、結婚し、子供を授かり家族になる。
「男」である僕らは、女性を好きになって、そうして大人になっていくんだって
周りの大人から、そう教わったんだ。
周りは徐々にではあるけれど、大人になっていった。
誰かを好きになったり、付き合ったり、そういう話は僕の周りにはなかった。
ただ学校のみんなは、誰かと付き合うことをステータスのようにしていたし、事実、一か月もしないうちに別れるカップルも多かった。(むしろそっちの方が多かった。)
でも「女の子についての話題」が、少しずつ増えていったようにも思える。
僕はみんなと同じ「大人」にはなれないな……。
そう、齢16にして悟ってしまったのだから、ある意味で、僕はみんなよりかは幾分「大人」だった。
〇
「なつきのこと、気になるって言ってたよ。」
「誰が?」
「新島さん」
最近、その「新島さん」界隈がざわついているのは知っていた。
僕を見てはざわつくのだから、嫌でも気づく。
「少し絡んであげたら?」
「そうだね。そうしてみる。」
こういう、少しざわつく雰囲気は嫌いだ。彼女のことが嫌いなんじゃない。
周りがはやし立て、盛り上げようとする雰囲気が嫌いなのだ。
僕は足早に、教室を後にし、廊下にでる。
休み時間のにぎやかな廊下には、何故だか居場所がないように感じられた。
〇
誰かのこと、好きになろうとして、好きになれるものなのだろうか。
そんなことを考えてしまった。
彼女が欲しい。彼氏が欲しい。そんなセリフが耳に入ることも、心なしか増えた。
欲しいから探す…そういう考えは理解できなかった。現に僕は今片思いをしているんだし、
これは好きなろうと思って好きになったわけではない。(そうだとしたら、初めから男の子なんて好きにならない。)
そう思うからなのか、周りのコイバナには辟易してしまう自分がいた。
僕は今、彼を好きになってしまっているのだから。
〇
放課後、学校近くのショッピングモールにきた。この日は部活もなく、としやと二人で、服を見てまわった。
「なつきさん、新島さんとはどうなの?」
としやが唐突に聞いてきた。彼女の件は、彼も知っていたようだ。
「メールしてるだけ。これといって何もないよ。」
「ふーん。なつきさんも女の子と付き合えばいいのに。」
「まぁ…いい人いたらね。」
「好きな人がいるからね。」そう言おうとしたけれど、やめた。
好きな人がいる。そう言った時の彼の反応を見るのが、怖かったからだ。
彼のことだ。きっと「だれだれ?」と笑いながら聞いてくる。そんな気がしてならなかった。
そんな顔を、面と向かって見ている自信が無かった。
どうしてか悲観的になってしまう。本当は「としやが好きだよ」と伝えたいのに
今の関係性が壊れてしまうのが怖くて、何もできずにいる。
だから、今のまま、
「もしかしたら、彼も僕のことを好きになってくれるかもしれない」
という可能性を、残しておきたかった。
「もしかしたら」という可能性の中で、生きていたかった。
ある意味、「夢」みたいなものだ。永遠を望んでも、いつかは覚めてしまうことを理解している。
でも、夢を見ていないと、きっと自分を保っていられないような気がするから、なんとか目を覚まさずにいようとする。
いつかは現実に目を向けることになる。でも今だけはこのままで……そう願ってやまなかった。
〇
僕の高校は、前期後期の二学期制だった。後期になり球技大会の季節になった。
サッカーとバスケの選択制で、バスケを選んだ。小学生のころ少しだけバスケの経験があったためだ。
いつも仲良くする(週末カラオケに行く)メンバーのほとんどがバスケを選んだおかげで、すごく楽しかったのを覚えている。
ただとしやだけがサッカーを選んだため、一緒にバスケをすることはなかった。
仲がいいメンバーの中でも、バスケ部経験者はひとりだけだった。
「まぁいつきとなつきがいるし、大丈夫じゃね?」そんなノリでチームが組まれた。
彼はいつきといって、僕と名前が近く親近感を覚えていた。
少し細身で身長が高く、いわゆる「イケメン」ではなかったが笑顔が魅力的な子だった。
彼もとしやと同様、人懐っこい性格だった。
「俺となつきがいれば優勝だよね」
彼は笑いながらそう言って見せた。
「サッカーはとしやがいるし、安泰だね。」
「まかせろ!笑 応援いくから、みんなもサッカーみにきてな?」
球技大会があったのは冬の手前、少し肌寒くなる時期だった。バスケはそこそこの成績で順位を上げていった。
僕のパスからいつきのシュートに繋がる瞬間が最高だった。
ハイタッチをしてチームでハグし合って試合を終えた。
「じゃあサッカー、応援に行こうか」
半袖のシャツの上からジャージをはおり、グランドに向かう。丁度としやたちの試合が始まる少し前だった。
「試合勝った?お疲れ様!」相変わらずとしやは元気だ。
グランドの前にあるベンチに、僕、としや、いつきが腰をかけた。
「試合の時はジャージいらないからもっててね。」
周囲が一瞬にして暗くなる。
突然としやがジャージを脱ぎ、それを僕の頭の上から着せるようにして、かぶせた。
顔が熱くなるのが分かった。こういう時本気で照れてしまうと、周りの目が気になってしまう。
でもそんなことを気にする必要はなかった。
僕の顔は、彼のジャージの中だからだ。きっと恥ずかしいくらいにいろんな感情が、顔に出ていたと思う。
急なことで驚き、びっくりして、恥ずかしくて。
当然ながら好きな人のにおいがするものだから、嬉しくなり、顔がくずれているような気がした。
そのまま彼のジャージを着ているのも恥ずかしいから、そっと脱ぎ、綺麗に畳んで膝の上に置いた。
ようやく顔を上げると、どうやら試合がもう始まるという時だった。
ベンチから離れグランドに向かうとしやの背中が見えた。
短い髪で、少し低めの身長。それでも体は鍛えられているからか、頼りがいのあるように見えた。
普段にこにこしながら笑っている、そんな緩めの雰囲気のある彼だ。でもこの時は、かっこいいと思ってしまった。
膝の上にある、彼の苗字が書かれているジャージを、少しだけぎゅっと、握った。
〇
試合は好調で、僕のクラスが優勢だった。としや含めサッカー部が多いためだ。クラスメイトがシュートをきめる度、クラスから黄色い声援があがる。
そんな中、としやもシュートを決めた。グラウンド中央からパスをもらい、ドリブルでゴールとの距離を詰める。
キーパーの隙をつき、長めのシュートを放った。
普段のとしやとは、少し違った。もちろん彼が部活をしているところは目にしたことがある。
でも、彼のプレーを、ここまできちんと見たのは、これがはじめてだった。
グランド中を駆け回る彼は、普段の姿から想像できないくらい鋭いものだったと思う。
それでも、他のメンバーに見せ場を作るような動きをしていた。そこが、彼らしくもあって、少し嬉しくなった。
〇
「おつかれ。」
「ありがとー!」
試合の後、としやが戻ってきた。
「シュートきめてたね。かっこよかったよ。」
「うん!楽しかったよ。」
グランドを出た彼は、普段通りの彼に戻っていた。
「次なつきまた試合あるんだっけ?見に行くね」
「ありがとう。サッカー勝ったし、バスケも勝たないとね。」
秋中ごろの乾燥した風が吹き、砂が少しだけ舞う。
汗も乾かぬままの体を翻し、木の葉と砂の舞うグラウンドに背を向け、階段をのぼった。
体育館は校舎の二階にある。次は僕の番だ。
ジャージは彼に持っておいてもらおうかな。
そんなことを思いながら、軽い足取りで、体育館へと向かった。