高校生の頃② 夏、帰り道とデート

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では、続きます。

目次

帰り道と、デート

今思い返しても、思い出すのは、初めて彼の地元に行って、そこで始めて彼と会った瞬間。

彼が帰る道

いつも、彼が帰る道をなぞる。

下校する際、普段バイバイと言ってわかれる、改札に入る。

どれも新鮮だった。

彼の地元は、学校の最寄り駅から30分ほどかかる。少しばかり遠い距離とも言えなくはないが、それも苦にはならなかった。

「こんな道で、こんな風に歩いているんだ」と、彼の見る世界に少しだけ、近づけた気がした。
 

途中、車窓の景色が緑一色になった。

たった30分電車にのるだけで、ここまで景色が変わることに驚いた。

子供のように、ずっと外を眺めていた。

電車は終着駅につく。

彼の地元は、路線の端にあった。

大きな駅で、ショッピングモールと繋がっていた。

待ち合わせ場所に早くついてしまった。

その後少しして、彼がやってきた。

にやにやしながら柱に隠れるようにして、おどけるしぐさを見せる。

子供みたいで、それがすごく、彼らしい。

思わず僕も頬が緩んでしまった。

 

「遠かったっしょ」
「遠いね。毎日大変じゃない?」
「もう慣れた。笑」

 

たわいもない話をしながら、ショッピングモールを散策した。

おしゃれな洋服屋さんが軒を連ね、見ているだけで楽しかった。

「この服がいいね!」と彼が思う、僕らしい服を合わせたりもした。

帽子を試着し合ったりもして、心なしかデートをしている気分になれた。

でもきっと、そう思っていたのは僕だけだ。

独りよがりな気持ちではあったけれど、嬉しかった。

 

自分たちと同じくらいの年で、制服で歩いている男女とすれ違った。

きっと普通のカップルは、好きな人とこういうことをするんだろうな…

「本物の」デートをしているカップルを横目に、そんなことを思った。

でも、その時ばかりは気にならなった。

それくらい彼と二人で遊べることが、楽しかったのかもしれない。

お店をまわるうちに、一軒のアパレルショップでメンズ向けのアクセサリーを扱うお店があった。

「これかっこいいな…」
「いいね。つけてみたい」

そんなことを言いながら、お店をあとにした。高校生にとっては、少し値が張りすぎていた。

社会人になった僕からすれば、デート先でショッピングすることも容易いのだろう。

でも、この時の僕は将来のことなんて思いもしなかった。

あの時は、今を生きることで精一杯だった。

僕が帰る道

 

「そろそろ帰ろうか。遠いもんね。」

日がかげり、帰る時間になってしまった。

ばいばいとハイタッチをして、改札を通る。

彼とわかれる時は、決まって手を合わせた。

その時の彼の顔も、笑顔だった。

 

もうほとんど沈みきっている日が、最後の薄い光を残して夜を連れてくる。

その境、もう夜になるという瞬間、空は濃ゆい紫になる。

そんな空を背に、田園風景が流れていった。

イヤフォンから流れる音の後ろから、電車のアナウンスが聞こえる。

 

帰り道は、いつも感傷的になってしまうから嫌いだ。

あれほど楽しかったにも関わらず、帰り道はいつも寂しさを覚える。

そして、現実を見せるんだ。

イヤフォンの音を上げ、そこから流れる音楽に集中しようとしても、だめだった。

家につき、自分の部屋にこもる。

でも寝る時は家族共有の部屋で寝なければならず、

それが苦痛だった。

泣いてしまうのを抑えながら寝ないといけない。

夜中、隣で寝ている家族が寝静まったのを見て、僕はベランダにでた。

熱帯夜と言えど、夜の風は心地よかった。

「楽しかったのにな…」

小さくかすれた声が、風に流れる。

あんなに楽しかったのに、いつもだめなんだ。

それがつらくてたまらない。楽しければ楽しい程、つらい気持ちで上塗りされていく。

 

きっとこれはもう、「友達」としての「好き」じゃないんだろうな。

そう思わざるを得なかった。

 

泣かないように、顔を上げる。

半分の月だけが、孤独に光っていた。

 

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